0人が本棚に入れています
本棚に追加
走馬燈のように目の前をよぎる間違えた瞬間。中学校の卒業式にウケるだろうと思って着込んでいった柔道着(もちろん全くウケなかった)。高校二年桜の木の下でマネージャーの告白したあの日(その後部では「ラブコメ野郎」という渾名が付いた。彼女は当時の主将と付き合っていた)。髪を染めて「チャラ男」を演じてテニサーの新歓に乗り込んだ大学入学初週(その後「猛烈に早口でアニメの話をしていたヤツがいた。ひたすらにキモかった」という評価を頂いていたことが発覚)。御社が第一志望ですと言いきれなかった就活時代(当然落ちた)。
その全ての経験が僕にアラートを上げている。今がその時、ナウ・イズ・ザ・チャンスであると……ッ!
ん? と思い直す。決してチャンスではないだろう。違う違う。ピンチだよこれは。危ない危ない、勘違いするところであった。チャンスとピンチは表裏一体と言うが、決してそんなことはない。チャンスはチャンスであり、リスクはない。攻撃のとき、無死満塁で一点も手に入らなかったとしても、減点されるわけではない。逆に守るとき、無死満塁で一点も取られなかったとしても、芸術点が加算されるわけではない。この辺りは勘違いしがちだが、人生そんなに単純ではない。
「うふふふふ。浩平さんって、ホントに面白いのね」と電話の向こうで彼女がケタケタと笑う声が聞こえる。よかった。どうやら正解だったらしい。
最初のコメントを投稿しよう!