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「あのさぁ、君にとって告白日和の基準はなんなの?」
質問に、彼は少しだけ間を置いて答えた。
「・・・さぁ? 俺が告白日和だと思ったらそれは告白日和で、じゃないと思ったら他の何かの日和だろ」
「じゃあ君の人生は日和で出来てるってこと?」
山崎は困ったような声を出す。
「まぁ、お前がそう思うならそうなんじゃね?」
「テキトーだなぁ・・・」
僕の変な友人、山崎はテキトーだ。
日付音痴だし、方向音痴。だけど野生の勘だけは鋭い。
なんか今日危ねーんだよなぁ。
なんかって何が?
知らねーけどさぁ、今日は外に出ない方がいいと思うんだよ。
えー、今日一緒にデパートに行くって言ってたじゃん。
うん、やめようぜ。
まじかー。
そんなに落ち込むなよー、絶対出ない方がいいって。
そうかなー?
そんな会話をした日、デパートに行くまでに僕らが乗る予定だったバスが、交通事故に合った。
本当に、変な友人だ。
よし、話を戻そう。
僕は目が見えないから、耳と肌からの情報しかないけど、山崎が僕の肩から手を離し、元の向かい合う席に座ったのが分かった。
そして、定員さんを呼んで注文をし直す。
「俺はオレンジジュース。吉村は?」
「えっと・・・コーヒー、ブラックで」
注文を終えてから、山崎が小声で僕に問掛ける。
「おい、お前が恋焦がれてる愛しの定員ちゃんがすぐそこにいるぞー」
「・・・うるさいなぁ、だから? 僕は君じゃないんだから、ホイホイ告白するわけないでしょ」
「いやいやした方がいいって、絶対。今日するべきだって、本当に。なんか俺分かるんだよねー、今日は絶好の告白日和だって」
彼の自信を帯びた言葉に顔を顰める。
「いっつも言ってるけどねそれ」
軽い衣擦れの音。
きっと首を竦めたのだろう。
丁度その時、頼んでいたコーヒーとオレンジジュースが届いた。
定員さんが気を利かせて、僕の手をコーヒーカップの取手まで誘導してくれる。
僕は有難くそれを受け入れて、コーヒーを飲んだ。
コーヒーの香りはとても好きだ。
視力がない僕は、嗅覚も生きていく上で大切な物。
いつも沢山の物が入り交じった空気を吸っているから、コーヒーの香りでいっぱいになる時は、僕にとって至福のときだ。
「・・・で、さっきからオレンジジュースを1回も机に置いていない山崎くんは、もしかして僕の好きな定員さんにオレンジジュースをかけようと企んでるんじゃないかな?」
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