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ニコリと唇の端を持ち上げ笑うと、山崎が変な声を出した。
「げっ、なんで分かったんだよ・・・」
フッと笑って、僕は答える。
「まず、君がオレンジジュースを受け取ってから一口も飲む音が聞こえなかった。それから、1度も机の上に置いてないね? 多分、ずっと手に持っているんだろうと推測したよ。でも、いつもジュースや食べ物が来たら野生動物のように食べ始める君が、何故飲まないんだろうって不思議に思った。そしたら、さっき君が言ってたことを思い出したんだ。「お前が恋焦がれてる愛しの定員ちゃんがそこにいるぞー」ってね。きっと君はその愛しの定員ちゃんがこっちの通路を通るのを待ってたんだろ? タイミングをみてオレンジジュースをかけようとした。さっきまでホットコーヒーに角砂糖6個入れてた君が、次頼むものをオレンジジュースにしたのは、気分転換なんかじゃなくて、定員ちゃんに火傷をさせないためだ。そうでしょ? 違うかい?」
そこまで一気に言うと、彼の「ぐぬぅ」と唸る声が聞こえた。
ついでにオレンジジュースを机の上に置く音も。
「ちぇっ、後悔したって知らないからなー、俺は今日告白すべきだと本気で思ってるんだぞ」
オレンジジュースを机に置く音がして、僕はほっとため息をつく。
しかし、その時はうっかり忘れていたのだ。
生まれた時からこの男は、自分の信じたことは絶対だと思っている男だと。
だから、普段は気をつけている些細な音に、気づかなかった。
小さな違和感は、勝る安堵に飲み込まれてしまっていた。
「・・・だから、俺はお前に後悔はさせねぇ!!」
「えっ」
「きゃっ!!!」
パシャッ、水がはねたような音とともに、オレンジの爽やかで甘い香り。
「山崎・・・!?」
「はっ、吉村誤ったな!!! さっき俺が置いたのは、お前がもう既に片してもらっていたと思っていたコーヒカップだ! 些細な音に気づけないとはまさに恋は盲目!」
高笑いする彼に、僕は頭を抱えた。
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