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「・・・あのね、山崎。僕がいつあの子の事好きだって言った?」
しばらく歩いて、山崎にいつもの公園のベンチまで連れていってもらう。
「え? 違うの? だってお前、あの子の声にずっと耳傾けてただろ? 俺の話が聞こえないくらいに」
痛いところを突かれ、僕は言葉に詰まる。
「・・・うっ、それは、そうだけど・・・。でも、僕あの子の名前だって知らないんだよ」
「名前ぇ? んなもんどうだっていいだろー」
多分この男は本気で言っている。
僕は山崎に向かってあからさまにため息をついた。
「あのね・・・、君にとっては顔や形が判断の基準になるかもしれない。でも僕にとっては、声や名前が判断の基準なんだよ。名前を呼ばないと、望んだ人は来てくれないでしょ」
山崎はしばらく黙ったあと、「・・・悪かったよ」と言った。
「え!? 山崎が謝った!? うわ天変地異が起こる! 見たかった! 天変地異もだけど山崎の屈辱感に溢れた謝罪顔見たかった!!!」
「お前! 人がせっかく謝ってんのに馬鹿にしやがって・・・!!!」
僕らはそこで一瞬黙り、それから笑った。
きっと彼といると僕は普通になれるんだと思う。
視力とか、周りの気遣いとか、全部とっぱらって、盲目の人ってレッテルの上に、きっと普通の人って上書きされるんだ。
彼といると、そんな感じがして心地いい。
ひとしきり笑ったあと、僕らはベンチに座って喋っていると、馴染みのある声が遠くから聞こえた。
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