閉店日

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 客が全て帰って片付けも終った後、少し考えてみた。遺産分与と相続税の事を考えればこの店の土地を売るのは仕方が無いかもしれない。だが逆に言うとそれだけ金が入ってくるわけだ。その資金を使って近くの賃貸物件に店を移す事はできるかもしれない。あるいはマンションを建てようとしてる買い手に、1階に店を残すように交渉できるかもしてない。諦めるのはまだはやい。  そう考えてるうちにふとあの男性客の顔が気になった。時代がかった服装に禿げ上がった頭、豊かに蓄えられた髯の丸顔は何処かで見たことがある。思い出して、売り上げ金を仕舞う金庫の中に入れてあった祖父から受け継いだレシピの書かれたノートを取り出した。ぱらぱらとページをめくる内に写真が貼ってあるページが目に付いた。 「そっくりだ。」  その写真の中で祖父にこのノートを託したと言うシェフの隣に軍服を着たあの男が立っていた。
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