相談

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 僕は絶句した。  小学校から解人のことは知っているが、今までそんな素振りを見せたことがなかった。  それがここにきて急に恋バナ。 「え、なんで!?」 「なんでとはなんだ。人が人を好きになるのは自然なことだろう」 「いやまあそうなんだけどさ……」  ただなんとなく、天才は色恋とは無縁なイメージを持っていた。だから今回のことは余りにも予想外なニュースだったのだ。  そして、好奇心が膨らんでいく。 「え、終野のどこが好きなの?」 「は? どこからどう見ても可愛いだろうが。お前の目は節穴か?」  まさかここまで罵倒されるとは思っていなかった。しかも目がこわい。好奇心だけで発言するもんじゃないな。 「まあ今回の本題はそこではない」  解人は睨みをやめて、眼鏡のブリッジを指で上げる。 「私は終野結子に告白しようと思う」  彼は堂々と宣言した。 「え、ほんとに?」 「本当だ。私は嘘をつかない」  僕はあまりの急展開に言葉を失い、「そこで、だ」と解人は言う。 「告白をするからには成功させたい。だから私は練習をしたのだ」  いつものように、と天才は言った。  なるほど、そして冒頭のあれか。 「うまくいかなかったのか?」 「……ああ」  解人は苦い顔をした。 「1回目からおかしいと思ったんだ。いつもは大体の構造は1回目で掴める。ただ今回は、全く何も掴めなかった」  0回目と、1回目が。  全く一緒だった。  彼はそう嘆くように言った。 「そうして2回目、3回目も結局変わることなく、今に至るというわけだ」 「そうか……」  こんなに打ちひしがれている解人を初めて見た。 「じゃあどうするんだ? 告白は諦めるのか」 「は? どうしたらそんな結論になるんだ。お前の頭はピーマンか?」  まさかここまで罵倒されるとは思っていなかった。しかも目がこわい。 「諦められるわけないだろうが」 「なんでだよ?」 「好きだからだ」  回答がイケメンすぎた。こんなに格好いいやつだったのかよ。 「だから私は100回練習することにしたのだ。そこで問也、一つお前に相談があるのだが」 「ああ、なんだよ」 「私の練習に付き合ってほしいのだ。3回練習して、私は改めて考えた。その結果こういう結論に至った。『告白は一人でやるものじゃない』と」 「なるほど。それで僕を相手役に」 「どうだろうか」  解人はこちらを見る。僕はそこまで深く考えずに頷いた。 「……いいよ」 「本当か! じゃあ明日の放課後、体育館裏に来てくれ」 「話がはえーな。わかったけどさ」 「では私は明日の準備があるので先に帰る! ではまた明日!」  それだけ言い残して解人は風のように帰宅していった。  明日、放課後、体育館裏。  まさに告白っぽいな、なんて安いことを考えながら僕も自分の鞄を持ち上げた。
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