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小学三年生の夏。
僕は彼の才能を目撃した。
3時限目の体育の時間。授業内容は「縄跳び」だった。
最高気温30℃を超える炎天下で、既に眼鏡だった解人は縄跳びを構えてグラウンドに立っていた。
授業が始まって、すぐに先生から「縄跳びの跳び方には色々ある。今回はその中で二重跳びに挑戦しよう。さあみんな、まずは自分でやってごらん」と自由練習の時間を与えられた。先生はそう言ってすぐに教員室へ戻っていった。
二重跳びはおろか、縄跳びに触ったことすら初めてだった僕たちは非常に戸惑った。戸惑いながらも教科書に書いてある二重跳びの図を見ながら、思い思いに練習していた。
その中で、彼はずっと立っていた。
縄跳びを両手に構え、膝を少し曲げていつでも跳べる体勢のまま、彼は何かを待つようにじっと立っていた。
そして彼以外の全員が跳び始めて10分後、彼は動いた。
その初ジャンプの結果は、1回も跳べなかった。縄が1周する前に脚にひっかかってしまったのだ。
しかしすぐに彼は2回目を跳んだ。
ヒュンヒュン、とさっきの失敗が嘘のように、彼は縄を2周させた。二重跳びを成功させたのだ。
そして、3回目。
ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン。
彼は連続で二重跳びを跳び続けた。
10回くらい連続で跳んだ後、彼は縄を止めた。そしてグラウンドの端に置かれた遊具まで歩いて、その影で三角座りをして休み始めた。
「もうできたの?」
「うん」
一部始終を見た僕は声をかけずにはいられなかった。
そして彼は純粋な目で言った。
「なんでみんなは同じ失敗を何回も繰り返すんだろう」
天才だ、と思った。
彼は本当に天才なんだ、と。
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