1人が本棚に入れています
本棚に追加
「嬢ちゃん、嬢ちゃん」
「――ん」
誰かの声にぼんやりと意識が浮上してきて、重い瞼を開けるとそこには――何とも愛くるしい虎のぬいぐるみ。
「ぬいぐるみ? え?」
「俺の名前はぬいぐるみじゃない。確かに可愛らしい姿をしてはいるが、俺としては恥ずかしいからあまりそこには触れてくれるな」
頭に黒いシルクハットを被った二本足で立つ虎のぬいぐるみは、その見た目からは考えられないくらい渋い声と口調で話し始めた。あまりのことに女性は目を見張るばかり。
「俺の名はギラン。嬢ちゃんの名を訊いても?」
「え、ちとせ、です」
「ちとせ。いい名前じゃねえの。んじゃあ嬢ちゃん、早速本題だ」
(名前訊いてきたくせに嬢ちゃん呼びのままなんだ)
ギランはどこから出したのか煙草を咥え、ライターでシュボッと火をつける。ちなみにそのサイズはぬいぐるみのギランに合う、まるでおままごとの付属品みたいに小さいものだ。
最初のコメントを投稿しよう!