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石田路子が朱葉の元で働くことになったのは簡単な理由である。
以前に働いていた洋菓子店を解雇されたからだ。無職。
子供の頃からお菓子作りが好きで、家族や友人に配っては褒められたのをきっかけにパティシエの資格をとった。留学を経て数々の賞を受賞したあとは、いくつか名のある店を転々とし、最終的に、小さな洋菓子店に就職したのはつい三か月ほど前のことだ。
店員も少なく、忙しい時は製造のほかに販売も余儀なくされたが、それでも路子のケーキに惚れ込み毎日足しげく通う男性客も増えてきてくれた。
喜ぶのもつかの間に、小さなトラブルが増え始めたのはその頃だっただろうか。
平日、人の少ないころを見計らって路子を呼び出す客がいたり、ショーケースに入っている商品を全部買い占めていく客。
一番乗りになるため何時間も前から店の前で並んでいる客や、毎日のように誕生日ケーキを頼んではプレートに路子の名前を指定するなど。
気味が悪いと思いながらも実害はなく、当人である路子が少し我慢すればいいことだと思っていた。
とはいえ小さな洋菓子店である。
何の因果か、路子に好意をもつ男性客が二人かち合ってしまった。
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