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昼には、少女と屋敷の周りに咲いている花を摘んだり、歌を詠んだり、少しばかりやんちゃな少女と鬼ごっこをしたり。夜になれば少女が眠りにつくまで、青年の旅の話の続きや、昔話をして。
暇さえあれば、にいさま、にいさまと、青年の後をついてまわる龍姫。姉たちもそんな妹の様子に苦笑しながらも、穏やかな微笑みで、二人の事を見つめていた。
不思議なことに、広い屋敷には少女たち以外の使用人が見えなかった。しかし、少女がちいねえさまと呼んだ姉もどこからか舞い戻ってきて、青年は三人の姉妹と毎日楽しく暮らしながら、これまでの疲れを癒していった。
けれども、安息が続けば続くほど、青年の胸には別の不安がわだかまりつつあった。
それは、忘れもしない。故郷の村の惨状。並んだ墓の下に眠る家族や友人たち。
青年は楽しい毎日の中で、ふとした拍子にそのことを思い返し、罪の意識に苛まれる。
――私は、彼らのために身を呈する決意をしたのではなかったのか、と。
そうして、ある日、とうとう青年は彼女たちへの別れを、打ち明ける決心をした。
「私は、ある使命を持って旅をしていました。……ですので、これ以上、御厄介になるわけにはまいりません」
少女の姉――だいねえさまは、青年の決意を聞き、静かに頷き、答える。
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