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「あの場所で静かに、だいねえさまとちいねえさまと、そして、にいさまと一緒に……静かに暮らす日を、夢見ておりました」
彼女の言葉に、青年の胸はえぐられるように痛む。
「だいねえさまが笑い、ちいねえさまが笑い、そしてにいさまもたつの隣で笑ってくださり。叶うなら、たつは……たつはにいさまのおょ、およめさまに、妻になりとう……ございました」
顔をあげる龍姫。その表情には、幼いながらも、一人の女性としてふさわしい決意があった。
「……私は」
青年は、唇をかみしめ、答えた。
「私の旅は、私の使命は、いつか終わる。そうしたら、たつ……いや、龍姫よ。そなたのもとへ戻ってこよう」
本当の嘘を、答えた。
――旅が終わる時は、使命を果たす時。しかし、相手は村を滅ぼすほどの大蛇。自分の命も尽き果てるかもしれない。けれども、自分はそのために生きてきた、それだけのために生きてきたはずだ。
だから、戻ってくると、嘘をついた。
「にいさま……にいさま! ああ、たつは、たつは、うれしゅうございます」
涙眩しく、美しい微笑みで喜ぶ龍姫の顔を、もう青年は見ていられなかった。
「たつは、にいさまの帰りを、いつまでも、いつまでもお待ち申しております。ずっと、ここで、お待ち申しております――……」
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