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違う、青年は答えることはできない。唇を噛みしめる青年に、何を思ったのか、首だけの大蛇はシューシューと笑い、途絶えながら最後の言葉を残した。
『た……龍、姫は…………貴様を……ほん、と……う、に、慕っておったの、だぞ――……』
そして、瞳の色が消え、首は動かなくなった。
青年はしばらくその場に立ち尽くす。
やがて、ぎゅっと目をつぶり、振り切るようにその場を去った。
龍姫が、慣れないお使いから帰ってきたのは、しばらくしてからだった。
抱えていた籠が落ちる。
中から転がった果物が、ころころと転がり、こつんと、姉の首にあたった。
「ちい、ねえさま? だい…………ねえさま?」
家に戻り、物言わぬ亡骸となった姉たちを見た、龍姫は……。
それからしばらくして、界隈の村では奇妙な噂が流れた。
曰く、幼く愛らしい童が、大蛇を退治した者を探していること。曰く、大蛇の退治を請け負った武芸者を探していること。
そして曰く、武芸者の姿かたちを聞いた童は急にカラカラと笑いだし、まるで蛇の形相で、走り去ったこと。
月に叢雲がかかる。
その夜道を、青年はあてもなく歩き続けていた。
行く先も、使命も、決意もない。ただその胸にあるのは、あの場所から少しでも遠く、離れようとする悔恨の気持ちだけ。
そして、たどり着く。
「――にいさま」
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