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「病なぞ。足止めを食らうわけにはいかぬのだが……」
思っていたことが独り言として口に出て、青年は疲れ果てた自分を実感した。
――ずっと張り詰めていた精神と、最近の休むことのない戦場巡りがたたったのか、ある日、青年は高熱を出してしまったのである。
幸か不幸か、山道ではあったが、偶然にも打ち捨てられた寺を探し当てた青年。御堂の中に捨てられていたゴザを見つけ潜り込むと、青年は深い眠りについてしまったのだった。
(どのくらい経ったのか……)
手拭いが完全に乾いていたことや、腹の空き具合から、もしかすると横になって丸一日経ってしまったのかもしれない。そんなことを考えながら、青年はゆっくりと起きあがる。少し外の空気を吸おうかと、ややふらつきながらも縁側に出た彼は――、幻想を見た。
月明かりに照らされる境内に立っていたのは、一人の少女。
年は一〇の頃か、青年よりも幼く見えるが、夜目でもわかる鮮やかな藍色の着物を纏い、月を見上げながら、何かのわらべ歌を小さく口ずさんでいるその姿。まるで夜月の明かりが形を持ったようなしとやかさを映し出していた。
あまりに浮世離れをしていた光景に、青年は我を忘れ、ぽつりと漏らす。
「……なんと、美しい」
「――ッ!?」
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