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青年のふいの声に、少女はびくっと振り返る。彼の姿を見つけるとあわあわと境内の灯篭の影に隠れ、そこから顔を半分だけ出し、尋ねてきた。
「あ、あなたは? ……だあれ?」
まるで仔ウサギのような表情と仕草に、静ひつな幻想は霧散してしまったが、代わりに少女の愛らしさが溢れだす。
「あなたは、だあれ? 人間?」
もう一度、少女は尋ねる。奇妙な質問が加わったが、おそらく、こんな夜更けに急に境内に出てきた自分を警戒しているのだろうか。青年は察し、できるだけ優しい声音で答える。
「ああ、すまぬ。私はこの通り、人間だぞ。旅をしている者でな……」
すると少女は、もう少しだけ顔を出し、うかがうように聞いてきた。
「どうして、こんなところに?」
「旅の道中、熱を出してしまったのだ。ゆえにそこの御堂で、療養して……く?」
「あっ!」
そこまで言った青年は、引いていなかった熱にめまいを覚え、膝をついてしまった。少女が声をあげ灯篭から身を乗り出す。
しかし、まだ不安なのか、そこから青年のもとへは近づいてくることはなかった。
「あ……あの、あの」
何かを言いたげにためらう少女に、青年はゆっくりと立ち上がり、言葉をかける。
「大丈、夫だ。無理がたたったな。まだ、休むとしよう。……おぬしも、早いとこ家に戻れ。心配する者がおるだろうに」
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