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青年の枕元に、昨晩の少女が座っていた。昨日と同じ、藍の地の着物のいでたちに、椿をかたどったかんざしで髪を留めている。
「これ、は?」
青年は額に手をやる。そこには、どこから持ってきたのか、ひんやりと濡らされた手拭いがあった。少女のそばには、水をしたためた桶も置いてある。
青年が少女に視線をやると、彼女は恥ずかしそうにうつむき、か細い声で答えた。
「……に、いさま。体、悪そうで。たつ……、か、看病……しようと」
(ああ――)
昨晩、少女の前で倒れそうになった自分を思い出し、青年は苦笑する。
「すまぬな。身体の方は、もう大丈夫だ。明日には、ここを出立できよう」
青年がそう言うと、少女はまるで泣きそうな顔になり、唇を震わせて言う。
「に、にいさま。もう、行ってしまわれるのですか?」
そこには、昨晩のような警戒の色はなく、捨て置かれた子犬のような愛らしさが見え隠れしていた。
「たつは、もっとにいさまとお話しがたいです」
「う、その、なんだ。私はまだ旅の」
殺伐とした空気は慣れている青年も、うっすらと涙をたたえ懇願する少女には弱かった。
「……ま、まあ。まだ少しくらいならば」
「わあ、たつは嬉しいです!」
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