龍姫の焔

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 喜ぶ少女に、悪い気もしなかった青年は、それから縁側に座り、殺伐とした物の怪退治の話はせずに、旅であった楽しいこと、奇妙なこと、驚いたこと、そんな話を月が傾くまで語ってやった。少女は素直に驚き、笑い、不思議がり……。  そうして、しばらく語り合った時、ふいに少女が口を開いた。 「あのね、にいさま。たつのねえさまに、にいさまの話をしたら、ぜひ会ってみたいと申しておりました」 「ねえ、さま?」  姉がいるのかと首を傾げる青年。 「うん、だいねえさまと、ちいねえさま。二人とも、たつの大事な家族なのですよ」  そう言って、青年の着物の袖を引っ張る。 「今宵は、これからたつのお家に、案内いたします」  ここまでせがまれては断りづらいと感じた青年は、素直にその申し出を受けることにした。 「おや、龍姫(たつひめ)。おかえりなさい」 「はい。ただいま帰りました、だいねえさま」  青年は開いた口がふさがらなかった。  少女に連れられ、向かったのは古寺の裏の茂みに隠れていた洞窟。そこを抜けると、まるで昔語りに出てくる桃源郷のような光景が広がっていた。  そこは、山の中に隠れるようにこしらえられた屋敷。月明かりに照らされる白い花に囲まれ、夜ではありながら、周囲にはぼんやりとした明るさがたたえられていた。質素ながらも表の古寺とは天と地ほどの差もあるつくりに、青年は感嘆の息を漏らす。 (これは、隠れ里……か)     
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