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この動乱の世。年若い女性や子供の身を思い、人里離れた場所に置く風潮を、青年は道中で耳にしたことがあった。
「あら、そこの御方は?」
声に、青年はハッとして顔を戻す。少女がだいねえさまと答えた女性が、自分を見つめていた。浮世離れしたそのあまりの美しさに、また青年は固まってしまう。
「この方がにいさまです、だいねえさま」
青年の隣にいた少女が、彼の代わりに答えた。
「ああ……貴方様が。龍姫が、世話になっているようで」
「い、いや。世話とはいっても、たった二晩、話をしただけですが……」
あまりに眩しい女性の姿に、青年は口ごもってしまう。そこへ、くいくいと袖を引かれ、青年が見れば少女が何故か頬を膨らませていた。
「にいさま、ねえさまに見とれてる……むう」
「なっ、いや、そんなことは!」
慌てて否定する青年。否、ここで否定していいものかと逡巡する彼に、少女の姉は慎ましく
笑い、
「長旅でお疲れでしょう。こんな場所でよければ、どうぞごゆるりと。龍姫の話し相手になってやってくだされ」
そう言って青年を受け入れてくれたのだった。
――それからしばらく、まるで夢のような日々が続いた。
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