コマキ先生からの宿題

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(スバル)の家族は、父親の仕事の都合で四月頭に引っ越した。それで、ピアノの先生も変わることになってしまった。 新しい先生は小巻(コマキ)先生という。中学一年生で135センチの昴より少しだけ背が高く、ずんぐりとしている女の先生だ。アッシュブロンドに染めた髪。歳は50代で、いつも広い肩にストールを掛けており、それには会う度に形の違う大きなコサージュが付いていた。 コマキ先生との三回目のレッスン。その時に彼女はニコリと笑って、ハスキーな声で尋ねてきた。 「スバルくん、音には色が付いてるって知ってた?」 そんなことは初めて聞いた。昴は大きく首を横に振った。楽譜の中で並んでいる音は無色透明だ。強いて言うなら、インクの黒。 「じゃあ宿題。この曲の音符、最初の1ページの音符ひとつずつ色を塗ってきて」 昴はぽかんと口を開けてコマキ先生を見上げた。 イギリスの血が四分の一入っているという彼女の悪戯っぽい顔。そこから昴は譜面立てに開いて置いた楽譜に視線を移した。 モーツァルトのピアノソナタ18番ニ長調。作品番号576。 「じゃあ今日はここまで。また来週ね」 「あ、ありがとーございました」 扉の外には次の生徒が椅子に座って待っている。昴は楽譜をバッグに入れて立ち上がった。
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