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初恋
「あら、きれいな楽譜」
次の週末に持って行った楽譜を見て、コマキ先生は嬉しそうに目を見開いた。
昴のモーツァルトは黄色をベースにして沢山の色が混じっていた。
元々はメロディーラインだけ塗っていたが、それではいけないことに後で気づいた。両手揃って初めて景色ができる。
「じゃあ、弾いてみて」
コマキ先生が一歩下がる。昴は緊張感と高揚感で頬を赤くしながらピアノに向かった。ふーっ、と息を細く吐き出しながら背筋を伸ばす。
背はまだまだ低いが、父親に似て大きな手。それが繊細な音を紡ぎ出す。この楽譜の指定速度より少しだけアップテンポにしてしまうのは、彼の癖というより天性の感覚だった。光の粒はそよ風の吹き込む温かい部屋に溢れた。
色がついたところまで弾き終えると、昴は恐る恐るコマキ先生の方を向いた。彼女の薄い唇がにっこりと笑った。
「スバルくんの音は、青空に飛んでいくシャボン玉みたいだね」
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