番外編 四度目のリングサイド(3)

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番外編 四度目のリングサイド(3)

 第一ラウンドから、友永は積極的に打って出た。鋭い左ジャブから右オーバーハンドを強振、更に左右のフックをボディへと送り込む。だが上背とリーチで友永を上回る城島は、長い腕をコンパクトに畳んでガードを固め、有効打を貰わない。そして、友永の打ち終わりに左を伸ばす。ヘッドスリップで避けた友永は、尚もワンツーを繰り出す。 「いいぞ祐次! 手を出させるな!」  常に城島の近くでパンチを打ち続けて、城島に反撃の隙を与えずにスタミナを奪う。これが三枝達が考えた城島対策だった。その為に、時間を割いてフィジカル強化に努めて来たのだ。まだ開始一分も経っていないが、今の所は有効らしい。  友永の左フックをすかした城島が、友永の頭を押さえてクリンチに取った。上から圧力をかけられながら、友永は城島の腰に両腕を回して前へ押し、ロープ際まで突進した。 「ブレイク!」  レフェリーが割って入り、ふたりは離れて再びファイティングポーズを取って向かい合った。 「ボックス」  レフェリーが再開を告げると、城島のジャブが増えた。先程のやり取りだけで、友永の意図を見抜いた様だ。 「捌いて入れ!」  三枝が指示を飛ばし、友永がダッキングしながら城島の制空圏への侵入を試みる。しかし、城島も右フックで迎撃し、簡単に中に入らせない。友永はガードを高く上げて飛び込むが、城島がすかさずクリンチで捕まえる。突き放そうとする友永だが、城島の押さえ込む力が強くて放せない。再びブレイクがかかり、ふたりが分けられる。 「さすがは城島、もうこっちの作戦に気づいたか」  大森が言うと、三枝は苦虫を噛み潰した様な顔で頷く。 「ええ、まずいですね」  再開したリング上では、無理矢理飛び込む友永と捕まえる城島という光景が何度も繰り返され、しまいには友永に注意が与えられる始末だ。  膠着状態のまま、第一ラウンドは終わった。三枝は素早く椅子を持ってリングに入り、戻って来る友永を出迎えた。コーナーに背を向けて椅子にどっかりと腰を下ろした友永は息も上がっておらず、汗もそれ程かいてはいない。フィジカル強化の成果はあった様だ。 「やっこさん、対応が早いな」  三枝が言うと、友永は脇から越中が差し出した水を飲んでから答えた。 「ああ。自分が手を出せない代わりに俺にも出させねぇ肚だ」 「よし、正面から飛び込んでも埒が明かんなら、奴の左に回りながら打て。ジャブはともかく、右は貰いたくないからな。捕まえに来たら思い切って離れろ。絶対に中間距離に居るな」 「ウッス」  三枝のアドバイスに頷くと、友永はもう一度水を要求した。三枝が対角線上に目を移すと、城島は椅子に座る事もせずにセコンドのアドバイスを聞いていた。その顔に一切の余裕も油断も感じられない。  セコンドアウトの指示を聞き、三枝はサードロープを跨ぎながら友永に告げた。 「いいか! 横からだぞ!」  友永がマウスピースを噛み締めながら立ち上がったと同時に、第二ラウンド開始のゴングが鳴った。  リング中央へ進んだ友永は、いきなり右ロングフックを伸ばして城島の出足を止めると、右へサイドステップしながら左右のパンチを振った。城島がフリッカー気味に左を出すが、友永は意に介さずにパンチを打ち続ける。 「いいぞ! その調子だ祐次!」  三枝が声を張り上げ、隣の大森も呼応する。 「ユージ! 手を緩めるな!」  友永はしつこく城島の左側へ回り、パンチを出し続けた。有効打はひとつも無いが、城島もなかなか手を出せない。城島が左を打ちながら捕まえに来るが、友永が右ボディアッパーを打ち込んですぐにバックステップした。指示通りの動きに三枝が満足げに頷いた直後、状況が急転した。
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