番外編 GW合宿(2)

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番外編 GW合宿(2)

「いよいよ、あいつもプロへの道を行くか」  友永が虚空を見上げながら言うと、二宮が横から口を出した。 「ユウちゃん、もしかしたらあっと言う間に追い抜かれるかもよ」 「抜けるもんならな」  友永が不敵に笑うと、更に井端が口を挟んだ。 「その前に俺が日本チャンピオン獲りますから!」  だが友永は井端の方を向かずに言った。 「オイ、誰か寝言言ってんぞ」 「ちょっと祐次さん!」  さすがに変な盛り上がり方をしそうになって来たので、三枝が強い口調で割り込んだ。 「ホラ、与太話してる暇無いぞ! 全員腿上げ!」  三枝が号令をかけると、選手達は思い思いの立ち位置を取り、ラウンド開始のベルと同時に身体を動かし始めた。  腿上げを二ラウンズこなした選手達は、更にバーピージャンプを二ラウンズ、反復横飛びを三ラウンズ立て続けに行い、一ラウンドの休憩を挟んでふたりひと組になり、パートナーに脚を持ち上げてもらっての腕立て伏せを五十回二セット、レッグレイズを百回二セットこなした。ひとり余る水島のパートナーは越中が務めた。 「よーし、休憩だ、キチンと水飲めよ」  三枝の指示が終わるや否や、選手達は自分で用意した水やスポーツドリンクにありついた。 「いや〜キツい」  水を呷った二宮が漏らすと、友永が言った。 「サボってんのがバレて来たなシンタ」 「サボってないから!」  二宮が言い返す横で、井端と奥井が並んで寝転がり、喘いでいた。水島も四つん這いになって荒い息を吐いている。 「いや、我ながらキツいメニューを考えたと思うよ」  三枝がフォローするが、友永は更に言う。 「俺が城島とやる前の方がキツかったぜ」 「ほぉ、言ったな祐次」  三枝が言い返した所へ二宮が割って入る。 「やめてよノボさん、ユウちゃんの挑発に乗ってこれ以上キツくしないでよ」 「弱気になってんなよシンタ! 勝てねぇぞそれじゃ」  友永が発破をかけ、二宮は心底嫌そうな顔で水を飲んだ。 「よし、そろそろ再開だ、綱引き!」  三枝が新たな指示を出して、予め用意した三本のロープをそれぞれに渡した。受け取った選手達はラウンド開始のベルと同時に鬼の形相でロープを引き合い始めた。  二ラウンズの綱引きの後は、互いに肩を当てての押し合いを二ラウンズ行って休憩に入った。選手達が床に座り込む中、三枝と越中は事務室に入って休憩した。すると、出入口から挨拶の声が聞こえた。 「チワーッス」  三枝は越中と顔を見合わせ、事務室から出た。入って来たのは、両手に大きなコンビニ袋をぶら下げた利伸だった。 「おぉ〜利伸! どうしたんだ?」  三枝が目を丸くして訊くと、利伸は両手の袋を掲げて答えた。 「あ、はい。差し入れ、持って来ました」  直後、床に座り込んで荒い息を吐いていた奥井が立ち上がって利伸に歩み寄った。 「あぁ利伸くぅ〜ん、わざわざありがとぉ〜」 「あ、はい。どうぞ」  利伸が差し出した袋を受け取ろうとした奥井を制して、三枝が受け取った。 「すまんな利伸、ありがたく頂くよ」 「ちょっと先生〜」  ゴネる奥井の横を抜けて、三枝が袋の中身を選手達に見せた。入っていたのは大量のプロテインバーとスポーツドリンクだった。覗き込んだ二宮が笑顔で言った。 「うぉ、こりゃ助かる」  その横に居た友永が立ち上がり、利伸に礼を述べた。 「ありがとよ利伸」  それを端緒に、次々と利伸へ感謝の言葉をかけて行った。利伸はひとりひとりに会釈を返すと、三枝に尋ねた。 「あの、見学してもいいですか?」 「ん? ああ、勿論。好きなだけ見て行け」  三枝は快諾し、差し入れを持って事務室へ戻った。  再開後は、利伸の目があるからか選手達の気合いの入り方が変わった様に、三枝には見えた。両手に三キログラムのダンベルを持ってのシャドーボクシングを三ラウンズ行った後に通常のシャドーを三ラウンズ、サンドバッグ打ちを二ラウンズ行って午前の部は終了した。
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