番外編 GW合宿(3)

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番外編 GW合宿(3)

 宅配で昼食を摂り、ひと休みしてから午後の練習が始まった。利伸は事務室の出入口脇に立って見学している。 「よし、じゃあスパーするぞ、まずは二宮と水島、用意して」  三枝の指示でふたりが用具を手に取り、友永と井端が装着を手伝った。その間に奥井と越中が、それぞれのコーナーに利伸が差し入れたスポーツドリンクを置く。  三枝が先にリングに上がり、次いで対角線上のコーナーからふたりがリングインした。三枝はふたりをリング中央へ手招きし、注意を与えた。 「水島、スピード重視でな。二宮は目を慣らせ」 「はい」 「オッス」  ふたりが返事し、互いにグローブを合わせてコーナーに分かれた。 「ボックス」  ラウンド開始のベルと同時に三枝が号令し、ふたりがリング中央へ飛び出した。水島は三枝の注意通り、速いフットワークから細かいジャブを繰り出す。二宮はデトロイトスタイルで小刻みに頭を振り、ジャブをかわす。 「コウタ、もっと出入り速く」  友永の指示で、水島の前後の動きが増す。対する二宮はスタンスを広く取って相手を見ながら時折フリッカージャブで牽制する。  開始三十秒程経過した所で、水島がウィービングしながら二宮の懐に入り、右オーバーハンドを被せた。仰け反りつつ左肘を跳ね上げて防御した二宮だが、返しの左ボディブローを貰ってしまう。一旦バックステップした水島が、再びワンツーで飛び込む。しかし二宮が左足を引きながら半身になって避け、左ボディから左アッパーを返す。顎が上がる水島だが、二宮の追撃はクリンチで封じた。三枝がふたりを分け、再開の指示を出す。 「ニノさん、足使って!」  井端の指示に、二宮はスタンスを狭くしてリング内をサークリングし始めた。追って来る水島にフリッカージャブを浴びせて距離を詰めさせず、逆に踏み込んで右ストレートを放つ。ダッキングでかわした水島が左を伸ばしながら接近、嫌がった二宮が右手でパーリングすると咄嗟に右フックを飛ばし、二宮が右にヘッドスリップした所を狙って左フックを出す。辛うじて右手を戻してガードする二宮が、左掌で水島の肩を押して無理矢理距離を稼ぐ。 「コウタ、押し負けんな」 「ニノさんジャブ出して!」  友永と井端の指示がそれぞれに飛ぶ。水島は頭を振って侵入を試み、二宮はフリッカージャブを連打して入れさせない。その様な攻防が続き、残り一分を切った頃に二宮が仕掛けた。デトロイトスタイルを解いてガードを高く上げると、水島と頭を付け合ってボディフックを打ち始めた。面食らった水島が思わずクリンチし、三枝が分ける。 「やるなシンタ」  友永が口角を吊り上げて呟く。再開後、再びデトロイトスタイルを取った二宮がフリッカージャブを連打、かいくぐった水島を右フックで迎撃してくらつかせ、左アッパーに繋げる。寸での所でブロックする水島の肩を押して突き放し、ワンツーを浴びせる。防戦一方の水島は、二宮の右をパーリングして左へ回る。  そこからは互いにジャブを突き合ってラウンド終了のベルを聞いた。 「よーし、水島ともう一回やったら次は祐次だ、準備しとけよ」  三枝がリング上から指示を飛ばし、応じた友永が防具を取った。すぐさま奥井が装着を手伝う。その様子を横目に見ながら、二宮がコーナーにもたれてボヤいた。 「えぇ〜次ユウちゃんか〜」 「覚悟しとけよシンタ」  友永がヘッドギアを被りながら笑みをこぼした。その直後にラウンド開始のベルが鳴り、二宮と水島が再び拳を交えた。
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