まちあわせ

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まちあわせ

1…2…3…  とても長い階段を一段一段、しっかりと踏みしめる。目的地は階段の先にある高台。そこがいつもあの人と待ち合わせをする場所だ。今日は私たちにとって大切な日。きっとあの人はあの高台で待ちくたびれているだろう。急がなくてはならない。  あの人と出会ったのも、あの高台だった。私があの人と出会ったとき、あの人は大声で泣いていた。なにかの縁と運命を感じ、それから何度もそこで会うようになった。 16…17…18…  私たちはその高台で、将来のことも語り合った。あの人は途方もなく大きな夢を抱いていた。そして、いつかこの土地を離れたいとも語った。あの人の夢の大きさに圧倒されて、私は『あなたと一緒に歩んでいきたい。』という小さな願いを飲み込んでしまった。 27…28…29…  あの人と再会したのも、あの高台だった。その時、あの人は抱えきれなくなった大きな夢と挫折を背負っていた。私は自分の胸の中にあの人を迎え入れることしかできなかった。あの人は子供のように泣きじゃくり、どれほど頑張ったのか、どれほど辛かったのかを吐露した。私はそれを静かに聴くことしかできなかった。 39…40…41…  お互いに忙しくなり、すれ違いも多くなった。それでも、あの高台で会うことだけは欠かさなかった。あの高台からの美しい景色を見れば、隣にいるあの人も私と同じことを考えているのだということを強く感じられた。どんなにすれ違っても決して切れることがない『縁』というものを確かに感じられた。 56…57…58…  額の汗をぬぐう。いつもこの辺りから昇るのが辛くなってくる。ふと、手に握っている花束を見る。あの人が好きな桔梗の花がふわりと揺れる。ポケットに手を入れる。一組の指輪の感触を指先で確かめる。今日は私たちにとって大切な日。きっとあの人はあの高台で待ちくたびれているだろう。急がなくてはならない。 74…75…76…  とても天気がよく、風が気持ちいい日。あの高台でビニルシートを敷いて、あの人と1日を過ごした。あまりに気持ちのいい天気だったので、あの人は私の手を握ったまま眠ってしまった。私の肩に頭を乗せて、幸せそうに眠った。あの人のぬくもりを感じながら、このまま時が止まればいいのにと思った。この先、これ以上の幸せは感じられないのではないかと思えるほど、至福で穏やかな1日だった。 97…98…99…  ここまでとても長く、そしてあっという間だった。 100…  視界が開ける。島を一望できるほどの景色が広がる。傍らにはかつて診療所だった建物が辛うじて残っている。そして、最も見晴らしの良い場所に、鏡のように磨き上げられた黒い石が立っていた。 「お待たせしました。」 その石の根元に、桔梗の花束と一組の指輪を置く。 「100歳のお誕生日、おめでとうございます。私も無事100歳になりました。私たちが出会って…100年目ですね。」  顔をあげると、磨き上げられた石に皺だらけの自分の顔が映る。その隣にあの人の笑顔が映ったような気がした。
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