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その果ての刃
「まるで阿部定事件そのものだな」
ベッドに横たわる二十代後半と思われる被害者の男性は、仰向けの状態で裸体。
騎乗位でセックスをした後、そのまま果てたのではないかという見方をした先輩刑事の口からそんな言葉がこぼれた。
「阿部定事件?」
「ん? ああ、おまえくらいの若者には聞き覚えがないのかもしれないな。だが、結構有名だと思うぞ。映画化もされたしな」
「殺人事件なのに映画化ですか?」
未解決事件を映像化なんて話は聞いた事あるけど、殺人事件を映画化なんて――と私は露骨に嫌な顔を表に出してしまった。
「そういう顔をするな。被害者遺族にしてみれば、たまったもんじゃないが、まあなんていうか、人の感情なんてものはどうにもならない事だってあるということだ。湯江、おまえだってもう二十六を過ぎようとしているんだ、恋のひとつやふたつ、経験しているだろう?」
「ええ、まあ。でも、恋に恋をする、ままごとのようなものでしたよ、学生時代の恋愛なんて。好きだけじゃどうにもならない事もあるなんて事を知ると挫折して終わり。乗り越えて育んで行こうとは思わないの。それができるのが大人の恋」
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