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「湯江、おまえは俺より若いんだ、もう少し柔軟な考えを持てよ。今時、相手に性別を求めるなんてな。同性愛を認めろって運動が世界で取だたされる時代だぞ。片方がノンケ、片方がそっち系、叶わぬ恋の果てに及んだ行為ってこともある」
「芳本先輩は、どうしても恋愛感情の縺れにしたいみたいですね」
若かりし頃はそこそこイケメンの部類だっただろう名残りがある、推定五十代後半の先輩刑事は、私の返しにそう思う事のどの辺りが不服なのかというような顔を見せる。
「そうだな。強いて言えば、憎しみで殺した場合、身体の一部を持ち去るなんてしないからかな。難い相手の一部なんて、持っていたくはないだろう? 形見分けの一種かな……と俺は思ったんだが」
「形見分けで男性器ですか? 私はいりません」
「おまえは、だろう? だが過去に惚れた男の男性器を持ち歩いた女がいた」
「阿部定……ですか?」
「ああ。なんだ、調べたのか?」
偉いと褒めるような口調ではなく、どちらかといえば意外だったという驚きにも似た表情で私を見る。
見られた私はどんな顔をしていいのかわからなくて、まっすぐ遺体の方を見ながらできるだけ淡々とした口調で返した。
「ええ、まあ。なんか知らないのも悔しかったんで」
「悔しいって……俺の見解に同意してくれたわけじゃないのか」
今度は私が意外だという驚きの顔をして、先輩の事を見た。
「同意、して欲しかったんですか?」
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