その果ての刃

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「『風谷の家は花屋よね。花言葉を知っている可能性があると思うの。ブーゲンビリアの花言葉ってあなたしか見えないっていうの。咲く時期は夏のはじめだけど、今でも充分咲いているから大丈夫。その花を、さつきのお母さんからって言って私が渡してくる』花言葉を知っていれば絶対来るとキリカは言う。どうしても母を奪われたくなくて、私はお願いって言ってしまったの。翌日、何食わぬ顔で井沼の庭にある花の手入れに来たその人に、キリカは『これ、さつきのお母さんから。いつものところで待っていますって』と言ってブーゲンビリアの花を手渡した」 「そうか! 持続的な関係であれば、逢引している場所があるはず。しかも決まった曜日や時間。だが、予定外の誘いをかければボロがでる。しかし、子供がそこまで計算して大人を騙せるものか? いや、まて。騙せるかもしれないな。相手が子供であれば変な疑いは消える。偶然と運が重なれば……」 「その通りよ、刑事さん。偶然と運が重なった。男は来ない女をひたすら待つ。待っても待っても来ない。理性があればバカな行動をしないはずなのに、理性が保てなかった男は白昼堂々と母を訪ね迫ったの。しかも私や父のいる前で。当然のように母は父の前で自分を擁護したし、自分の妻に色目を使った男を父は激怒して、花屋が井沼のご婦人に色目を使ったとか夜這いしていたとか噂は瞬く間に広がり、男はあてつけのように、井沼の家の庭で首を吊った。手にはブーゲンビリアの花を握って」 「そんな事をしちゃ、残された風谷の家族は花巻で暮らしていけないだろうな。だから都心に逃げるように越したのか。だがなぜ湯江も転校したんだ? 湯江が殺したとでも言われたのか?」  いいえとさつきは首を横に振る。     
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