その果ての刃

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「当時、キリカは生方という姓を名乗っていた。今は湯江と名乗っている……ご両親が離婚でもしたの?」 「いいえ。父も母も、昔と同じよ。それに、母の姓は生方ではないし」  親戚の誰かに預けられていたという記憶もないし、そんな話を聞かされた事もない。 「そう。それは、どういうカラクリなのかしらね。でも、もしかしたらあの時の事がきっかけで苗字を変えたのかもしれないと、私は思ったのよ」 「それはつまり、精神的に参った湯江の環境を変え、記憶を消し、湯江キリカという人物を作り変えたということか」 「あまりにも現実的な考えではないわよね。私にとって、キリカが生方でも湯江でも構わないの。気になるなら、あなた自身で調べてみればいいわ。話、戻すわね。当時、生方と名乗っていたキリカの両親はとても責任を感じていたようで、何度も何度も家に謝りに来ていた。母は自分擁護に必死で余計な事をと思っている節があったけれど、父は違ってキリカのしてくれたことを、よくやったと褒めていたのよ。父にしてみれば、妻に色目を使った不届き者を処分してくれたわけだから。でも、母にしてみれば……」 「自分の子供は目の届く範囲で監視できるが、湯江の事はできない。金かなにかで厄介払いでもした……というところか」 「その通りよ」     
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