その果ての刃

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「仲居と顔見知りだったんだな。前の雇い主の娘が出入りしていても特別不思議に思う事もないってことか。贔屓にしていたみたいだが、そういう繋がりなら尚更口裏合わせるよな」 「刑事さんはまだ私を疑っているのね。まあいいわ。確かにあの晩、風谷とあの温泉宿で会っていたのは私よ。でも、私はあの男と肌を重ねる趣味はない。その後、誰と会っていたかはわからないけれど」 「いや、そんな事はないだろう。あんたは知っている、事件の真相を。だが全てを話せない理由がある。夏子の秘密を守りたいからじゃないのか?」 「どういう理由で?」 「夏子こそが真犯人だからだ。風谷に別れ話を言われ、自分だけのものにしたかった。だから殺して男性器を切り取った」 「姉の家から、風谷の性器は見つかった?」  さつきは表情ひとつ変えずに、芳本先輩の問い詰めを綺麗に交わしながら追い詰める。  崩せるだけの物証はないけれど、私も先輩と同じく本当の犯人は夏子だと思う。  ただ、なぜ猛は黙秘し続けているのか。  やっていないと否定をしながら、多くを語らず今日に至ってはひと言も話してはいないという連絡を受けている。  死体が発見された順番通りの死亡時刻なのだろうか――漠然とそんな事が思い浮かぶ。  もし発見の順番と死亡時刻が違うのだとしたら、上手く話しが繋がるんじゃないだろうか。     
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