その果ての刃

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 テーブルに額がつく程深く頭を下げる。 「あなたのお願いを私が断れると思う? でもひとつだけ約束をして。あなたの過去を私にもちゃんと説明をして欲しい」 「私の記憶が欠けている事と、苗字が違うことね。可能な限り調べて打ち明けます」  記憶が無くても彼女は私の大切な友達であったことはわかる。  記憶がなくても感情というか気持ちが懐かしさを訴えているから。 「では話を進めます」  仕切り直すように言うと、さつきは静かに息を吐き、先輩は横から私の顔をじっと見つめた。 「そもそも私たち警察は大きな先入観で捜査をしたことで、遠回りをしてしまっているんです。死体が発見された順番と死亡時刻の順番は同じではないんです。微妙な時間差があります。到底ひとりではできない犯行なんです。風谷、一之瀬、井沼夏子という順番で発見しましたが、死亡時刻の順番は、一之瀬、風谷、井沼夏子です」 「……なんだって?」 「さっき、確認しました」 「……そういう大事な事は最初に言えよな」  誰にボヤクわけでも芳本先輩はポロリと口からこぼす。 「誰も疑わなかったのですから、仕方ありません。先入観とか思い込みって怖いですね」 「ああ。俺も初心の慎重さを忘れていたってことだ。で?」     
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