その果ての刃

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「ん? ああ、強要はしないけど、若い世代の考えっていうのも参考にしたくてな。で? 事件を知っておまえはどう思ったんだ?」 「はっきり言っちゃえば、まったくその感情がわかりませんね。だって、殺したら意味がないじゃないですか。相手が生きているからこその恋でしょう?」 「ま、そうなんだけどな。だけど時として死こそが永遠と思う時もあるんだよ」 「その口調、まるで芳本さんがそういう経験をしたような言い方ですね」 「――そうだと言ったら? おまえは俺を軽蔑するか? 人として、男として、刑事として」 「人と男はわかりませんけれど、刑事としては軽蔑しますね。自分の感情だけを優先して罪に手を染める考えが浮かぶなんて」 「そうか。おまえ、歳だけじゃなく考えもまだまだ若いな。汚れていないって意味だぞ?」 「それ、褒めていませんよね?」  という私の聞き返しに、先輩は黙って口元だけを緩めた。  それに対し、私も突っ込むことをせず、黙々と自分の仕事をして捜査拠点を置いている所轄警察署へと戻ると、既に情報が集められていた。  この後合同捜査会議があるのは必須で、先輩と交わした意味深な会話の事もすっかり記憶の奥底へと追いやられ、頭の中は事件解決に向けての意気込みでいっぱいになる。     
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