その果ての刃

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「何事もなかったかのようにかどうかはわかりませんが、風谷は温泉宿にひとりで戻り、夏子さんと会っていると思います。好きな人には嫌われたくない、軽蔑されたくないと思うのが普通だと思いますので、夏子さんとのセックスは至って普通だったと思います。最中か後か、もしくは最初かもしれません。殺してしまったかもしれないと打ち明け、その処理を夏子さんに頼んだのだと思います。夏子さんとしては複雑だったと思います。風谷の子を宿し、その男に捨てられかけている。その男は自分の店の従業員に手をだし、しかも殺してしまった。警察につき出せばいいけれど十七年前の事がありできなかった。結果、風谷を殺す事を決めたんです。芳本先輩の見解の通り、誰にも渡したくはなかったから殺したという見方もできるかと」 「男性器を切ったのも、自分以外の女とできないようにする為。地獄に落ちても自分以外の女と関係を持つ事は許さない――夏子の置かれた状況からだと、そうも考えられるな」  私は推理を続けた。  風谷はラブホの部屋のエアコンをつけっぱなしで部屋をでる。  そうすることで、まだ客が使用中だと示すことと、死亡時刻を遅らせる事が目的だったと思われる。  その事も打ち明けられていた夏子は、それをそのまま利用した。  確か、風谷の死体は温泉宿の仲居が発見して通報をしているし、一之瀬の件も同じ。  ただ一之瀬の場合は、一日以上の利用の為不審に思い……ということだった。  ラブホテルの利用目的はもちろん性行為、一日以上し続けるとはなかなか思い難いし、利用時間は殆ど短時間の休憩コース。  一日以上出て来なければ従業員も不思議に思うのも当然で、夏子はそうなる事も利用したと思われる。     
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