その果ての刃

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「夏子は風谷の男性器を切ったことで、それをまゆにも利用し、ふたつの死体は同一犯だと思わせたかった。そして自分の死も、自殺ではなく他殺。性器や乳房を切り取る異常犯罪に仕立て上げたかった。でも自殺してしまってはそれができない。それをさつきさんに頼んだんです。このマンションの裏手には川が流れています。夏子さんの死体はこことそう離れていない川岸で発見されました。さつきさんのアリバイが無理なく筋が通る範囲で命を絶つ必要がある」 「湯江、おまえの推理が当たっていたとして、無くなっている性器などはどこにある? 井沼の家にはなかったぞ」 「今日、さつきさんが警察署に来ました。その後帰宅してそれらを別の場所に隠したんです。確か花巻まで車で一時間くらいと聞きました。早朝ならもう少し短い時間で着けるかと。ご両親の墓の中か、まだ所有している山の中か……どうです、さつきさん」  静かな空気が漂う。  その空気は決して重苦しいものではなく、どちらかといえば何かから解き放たれたような解放的なものを感じる。 「姉の自殺を見抜かれたら、私の負けね……」 ◆◇◆◇◆  井沼さつきが全てを自供したという情報を井沼猛に伝えると、彼はプッツリと張りつめていた緊張が取れると同時に、涙を流し夏子すまないと口にした事を担当した刑事が教えてくれた。  不妊の原因が自分にある事をわかっていながら、男の体面と自分の親が孫を楽しみにしている事から、自分には精子がなく子を作れないのだということを言えないでいた。  結果、愛していながら妻を追い込み、他の男に救いを求めるように浮気をさせてしまった。     
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