その果ての刃

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 既に亡くなっていた姉にしてやれる事は、姉の計画を実行するだけだった。  井沼夏子の家にあるブーゲンビリアの花は、風谷が彼女に贈ったもので、『あなたしか見えない』という花言葉に幸せを感じた。  まさかあの花が十七年前の復讐を意味しているとは知らずにいた事も夏子は悔いていたらしい。  あなたしか見えない――復讐を遂げるまであなたしか見えない。  でも、本当にそういう意味で風谷は夏子に贈ったのだろうか。  純粋に愛しているという意味での、あなたしか見えないではなかったんじゃないかと、私は思う。 「本当はね、姉の乳房を切り取るように言われていたけれど、できなかった。全身の毛を剃るのが精一杯。姉はまゆを可愛がっていたから、そんなまゆの身体を傷つけるなんて、凄い辛かったと思う。それをしてしまえる程、あの男を愛し、そして愛した自分を呪うように悔いたのよね……」  せめてまゆの身体だけは戻してあげたいといい、最後の最後にやっと隠し場所を教えてくれた。  後になったもう一度現場写真を見ると、風谷が死んでいた部屋にも、まゆが死んでいた部屋にもブーゲンビリアの花が置いてあった。     
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