その果ての刃

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 あの事件から二年が過ぎた年の夏、梅雨が長引き平年より気温が低く、このまま冷夏で秋が来ると思っていた俺の期待を裏切り、日々三十度越えの真夏日が続いている。  事件解決の功績を評価され、警視庁に戻ってこの一年、殆ど無休で働き続けた俺は、たまりにたまった有休を全て注ぎ込み、長期休暇を取り、彼女に会いに来た。 「さつきママ、いる?」  地下1階、地上三階のビルに以前と変わらずその場所に井沼さつきのクラブはあり、三階にはホストクラブ、そして以前地下にあったピンサロはバーに変わっていた。  店先で訊ねた若いホステスが、上品に和服を着こなした女性を伴って戻って来たのは、十数秒後。  俺の顔を見ると、もういいから仕事に戻ってと囁き、和服女性が直に俺の対応をし始めた。  カウンター席の奥に案内をされ、ボーイがいらっしゃいませと声をかけてくる。 「ここはいいわ。私個人の知り合いだから」  自らカウンターの中に入り、おしぼりとお通しを出し、何にします? と聞かれた俺は、任せると短く返した。 「随分とお久しぶりですね。警視庁に戻られたと聞いていましたけれど」     
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