その果ての刃

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 バーボンのロックで口の中を潤し、隣に座るように促し彼女のグラスにも同じものを注ぐ。  再会の乾杯の後に彼女が言った言葉だ。 「すまないな。あの事件の後、何かと慌ただしく日常が過ぎていってな。湯江の退職の日も結局何もしてやれなかった」 「責めているわけじゃないですよ。芳本刑事には多大なる配慮を頂き、今の私があるのですから」  彼女、井沼さつきは一連の殺人事件に関し、隠蔽工作をした等の罪に問われていた。  だが実刑を与えるだけの事をしたわけでもなく、厳しい罪になることはなかったが、それで彼女の気持ちが救われるわけではない。  こうして店を切り盛りし続けられる状態を維持するのに、かなりの努力をしたのだろう。 「そう言ってもらえると、肩の荷がおりる」  それから暫く、世間話をして俺は本題に入った。 「湯江キリカの事だが……ああ、ママにとっては生方キリカになるか」 「今ではもうどちらでもいいんです。キリカはキリカですから。彼女が何か?」     
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