その果ての刃

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 そんな施設にいる子を養子にとやってくる里親希望のご夫婦は、ボランティア精神が強く、子供には罪はなく幸せになるのは当然であり、それらを手助けできることを誇りに思う、人として尊敬に値する方々。  私を養子にと望み、三歳頃から九歳まで育ててくれたのが生方夫妻。  私が花に詳しかったのは、私を産んだ女性が花の情報や知識に長けていたからであり、直接育てていないのに受け継がれている事を危惧していたそうです。  その不安が的中したのが、さつきさんが言っていた十七年前の事件です。  花や花言葉を用いて連絡を取り合い、犯罪に手を染めた産みの親と同じことをしている。  花巻を出て東京に戻った生方夫妻は、施設に相談をすると病院で治療する事を勧められそれに従った。  問題はその治療方法です。  施設の方から一方的に養子縁組の破棄を言われ、私は一時、ただのキリカになりました。  それから湯江キリカとなるまでの数か月間、時間をかけゆっくりと私の記憶の上書き処置をされていたのです。  私が父や母と思っていた方々は、病院関係者で、私の為に家族ごっこをし続けただけで愛情などなかった。  私が刑事となり家を出るまでの十数年、欠かすことなく記憶の管理をされていたのだそうです。  こうして知り得た事を書き伝えている今も、何が本当で何が作りものなのかわからないし、怒りや悲しみという感情も沸いてきません。     
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