その果ての刃

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 まだ自分の身に起きている事実だと受け入れられないんです。  私の人生二十六年という年月は、誰かに監視され作り上げられた人生で、私が選び望んだ人生ではないのだから。  でも、そんな私の人生の中で、唯一自分の意志があるとしたら、ブーゲンビリアの花とその花言葉だと思う。  産んだ親に育てられなくても受け継ぎ、記憶が上書きされてもなんとなく記憶に残っていた。  それすらも組み込まれていたことだとしても、それでも私は信じたい。  そのふたつだけは自分の本当の記憶なのだと。  だからもし、また記憶が上書きされたとしても、その花と花言葉だけは忘れない。  そしてもうひとつ、井沼さつきという名前も。  先輩、いつか彼女と会う事があったなら伝えてください。  違う名前、人格、記憶になっていても、この三つだけは忘れない。  いつか会いにいきます――と。
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