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「開けることはできないの?」
「開けちゃいけないんです。ただ、俺の一族は啓示者の一族なので、この箱から、啓示を受けるって、父さんが言ってました」
予想外の発言に、テランは興味をそそられて追及する。
「啓示者ってなにかな?」
「えっと、預言を聞く人のことです。父さんはこの箱から、預言をさずかっていました」
「箱から言葉を貰ってたの?」
「この箱には、輝光神が宿っていて、聞く能力がある人には神様の預言が聞こえるって言ってました」
「へえ、それは君にも聞こえるの?」
「それが……」
坊主頭の下の太い眉毛が悲し気に下向きになった。
「俺だけ、なんにも聞こえないんです。父さんも、覚えてないけどじいちゃんも、この箱からいろいろ未来のことを聞いて、一族を助けていたんですけど、俺にはどういうわけか何にも聞えなくて、輝きの一族はどんどん減って。それで父さんの最期の預言が、『箱を持って都へ行け。それが救いとなる』だったので、俺、箱を背負って、村を出たんです」
「ふーん、なるほどねえ」
テランは意外すぎるムトウの話に、頭を全力で回転させる。
啓示を授ける神が宿る箱。
聞く力があれば、啓示が聞える箱。
これはなかなか独創的で、儲け話の匂いがするではないか。
「うん、なるほどね、わかった。じゃあ、ムトウ君、きみ、明日からこの箱の言葉を聞く訓練をしてみたらどうかな?」
「え、訓練、ですか」
「そう。ぼくも協力するからさ、困っている人のところへ行って、箱がなにか言わないか、耳を澄ませてみるんだ。もしかしたら、都なら箱も啓示をくれるかもしれないじゃないか。都に他にあてはないんだろう?」
「はい、特に行く先はありませんけど。でも、俺、聞えるようになるんでしょうか」
「まず最初は、聞える気持ちになることが大事だろうね」
テランはにっこりと笑って、ムトウの肩をぽんぽんと叩いた。
「聞えなくても、聞える気持ちで沈黙に耳を傾ける。それが大事だ」
「聞えなくても、聞える気持ちで……」
「そう。きみは自分には聞こえないって思いこんでるからね、それが一番の問題じゃないかな。もしかしたら、箱はとっくにきみに話しかけているかもしれないよ」
「そうですか……。そう言われれば、そうかもしれないですね」
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