私の大切な100の人

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 街中を新一と二人で歩き始める。私たちの家は、間に3軒挟んで激近(げきちか)なので、帰りはギリギリまで一緒だ。 「新一さ、また私のこと()けてたわけ? てか、何であいつと私が今日会うこと知ってたの」 「一緒のクラスだから、嫌でもお前の声が耳に入ってくんだよ。【やらかした麻婆豆腐(マーボードウフ)】だかと、メールしてるって話が」 「危なっか油淋鶏、ね」 「そんなのどっちでもいいよ。んで、その芸人が札幌に来るってのをたまたまネットで見かけて、もしかしたら、って思ったんだ」  すごい推察力だ。私のストーカーなんてやめて、探偵にでもなったらいいのに。 「で、隣の部屋に入って、聞き耳立ててたわけ?」 「店内が騒がしかったから、お前らの会話聞き取りづらかったけどな」 「……ねぇ。いい加減、私を尾行するのやめてくれる?」  助けてもらって何だけど、中学の終わり頃からずっとこんなのが続いているのだ。 「悪いけど俺だって、好きで金魚のフンやってるわけじゃないんだぜ」 「じゃあ何なのさ」  新一は大きく息を吸って吐き、私の顔を一瞥(いちべつ)すると言った。 「葉月、お前さ。愛に飢えてんだろ」 「はぁっ!? 真面目な顔して、何馬鹿なこと言ってんの!」 「好きでもない男と付き合ったり、うわべだけの友達と適当にへらへら笑って……お前は誰かに愛されてるって実感がないし、お前自身もまた、誰のことも愛してないだろ」 「ちょっと失礼じゃない? ちゃんと好きな人と付き合ってるつもりだし。それに友達ならいっぱいいるよ。100人くらいは平気でいるんだから!」  新一は急に立ち止まると、判りやすく溜め息をついた。私の発言を受けて、呆れ返っているように見えた。 「お前それ"一年生になったら"の歌詞かよ。友達100人できるかな♪って、数の大きさの問題じゃないんだよなぁ。……まぁ仮に、お前に100人の大切な人がいるとして、そいつらもお前のこと、大事だと思ってんのかな」 「そんなの知らないよ」
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