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ーーきっと私だけがずっと、お母さんが亡くなったあの日に囚われたままだったんだろう。
お母さんが亡くなったのだって、新一のせいなわけがなかった。そんなの絶対ありえなかった。
それなのに私は、彼が魔法の約束を守れなかったと、他人に重荷を無理やり背負わせて、自分は軽いまま人生を過ごしていたのだ。
こんなに可哀相な私なのだから、何をやっても許される。どんなに私が危険な目に遭ったとしても、新一が助けてくれる。それを彼に強要することで、自分は救われていた。
私は新一に頼りっぱなしで、魔法を信じる子どものままだったのだ。
「新一、本当何なの。勝手に大人になんないでよ」
「別になってないよ。あのつまんない芸人のとこに飛び込むのだって超ビビったし、お前のお父さんに説教かますのも怖かったさ」
「……じゃあ、何で勇気出せたの?」
「……愛、かな」
「あはは、バカ!」
私は新一の頭にチョップをくらわせる。私も泣く。泣きながら二人して笑う。寂しさを埋めるために関係性だけ持って、本当に心を通じ合わせられる人なんて、私は作ろうとしてなかった。
素の自分で笑えたのは、いつ以来だろうーー。
私は学校帰り、倉田家の前に立つ。私に気づいたペロがハウスから出てくるので、私はペロを好き放題撫で回す。撫でたい私と撫でられたいペロ。
だけどそこに、損得勘定と言えるほどの計算高さはない。これもまた無償の愛なのだろうか。
私はペロに、ほんの少しの勇気をもらってから家に帰る。リビングに入ると、顔も名前もよく知らない女の人が、キッチンに立っている。……違う。私が彼女の名前を一方的に聞いていなかっただけだし、真正面から顔を付け合わせて話していなかっただけだ。
彼女は私の帰宅に気づいて、おかえりなさい、と言う。私も小さな声ではあるけど彼女へ、ただいまと返す。すると彼女は目を大きく見開き、驚いた様子で私の顔を見る。そんな大げさな。でも確かに私は、彼女の挙動にこの数年間、一切リアクションをしてこなかったのだ。
こちらに向かって柔和な表情を浮かべる彼女の目尻のシワは、何だかチャーミングだ。肌もすごい白くて、背は私よりも小さい。声質も聞いているだけで眠くなってしまいそうなほど、耳ざわりがよかった。そんなこと、一緒の家に住みながら、今までひとつも知らなかった。
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