私の大切な100の人

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 私は我慢の限界で、お前の芸のこやしになるつもりなんてないわ!ってとうとう叫びそうになった瞬間、部屋の襖がバンッと外側から開けられた。カメラのシャッター音がカシャッ。驚く私たちを尻目に、扉を開けた彼は間髪入れずに言った。 「山未一番星さん。芸名からして売れる匂いが全然しませんけど。この先も希望を胸に抱いて、お笑い続けたいですよね?」 「芸名じゃなくて本名だし。てか誰だよ、お前」 「失礼。僕はこの子の幼馴染みです。あなたが彼女の腕を掴んで、性交渉している写真、携帯で撮らせてもらいました」  私を助けてくれたのは、幼稚園から高校まで学校が一緒の、魔法使いでストーカーの外山新一(とやましんいち)だった。 「勘違いすんなよ。葉月ちゃんとはただの知り合いで、下心なんて……」 「ではこの写真、ネットにアップしますね」 「おいおーいっ! 何でそんなことすんだよ、お前」 「何かまずいことでもありますか? 僕の勘違いですみませんけど、山未さんと葉月はただの"知り合い"なんですよね。その2人が談笑している様子をみんなに見てもらったって、別に問題は無いわけじゃないですか」  私まで顔や個人情報を(さら)されるのは困るんですけど。 「……いやぁ。その子は高校生で、俺は大人なわけだし」 「それで?」 「時間も時間だから……見た人に誤解されたら困るなって、」  新一は私を押し退けて山未の隣に来ると、いつの間にか手に持っていたお店のスリッパで、彼の頭をスコーンと打った。シュールな音が鳴り響く。 「誤解されるようなことしてんのがそもそもの間違いなんだよ! あと、お笑い芸人ならちょっとは面白く返してみろや、このボケッ!!」おぉ、私が言いたかったことを気持ちいいくらいに代弁してくれた!なんて、今にも拍手したい気分でいると、新一が振り返って、今度は私の頭にチョップをお見舞いした。痛い。「葉月! お前もお前で、ふざけたマネしてんじゃねぇよ、ボケ!」  ーーあぁ、ボケは私もだったんだ。
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