私の大切な100の人

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 そして喪失感を味わうのは、古島海虹との別れだけでは終わらない。昼休み。私は新一に屋上へと連れ出される。  新一は石タイルを歩いて中央辺りで立ち止まると、おもむろにポケットから携帯を取り出し、画面をタップした。私たち以外誰もいない空間に、携帯から聞き慣れた声が流れてくる。私が一番仲良くしているグループの、里緒菜と恵と歩実と千冬の声のようだった。 「葉月ってさ、いまいち何考えてんのかわかんないよね」「お笑い芸人と知り合いみたいなこと言ってたけど、本当に会ったのかなぁ」「ちょっと危なくない? てか、古島先輩と付き合ってるのに他の男と遊びに行くってのはどうなの?」「あはは。完全にビッチだよねー」  私の悪口だ。どうやら彼氏の次に私は、友達まで失ってしまったみたいだ。私が彼女たちから良く思われていないのは、薄々気がついていたけど。 「休み時間中、お前がいない間に教室で録音しといたんだ」あっけらかんとした態度で新一は言った。 「あんた何なの。勝負か何か知らないけど、そうやって人を追い詰めて楽しい?」 「リストに書いてあった他のクラスメイトにもお前の印象聞いたけど、全部同じような意見だったよ」 「……ふざけんな。私が誰にも好かれない寂しい女だって、馬鹿にしたいわけ!?」  私は新一にギリギリまで近づくと、彼を両手で突き飛ばした。  だけどその怒声に呼応するように、新一もまた、私の肩を手で強く押し返してきたのだ。彼も彼で怒りは頂点に達していたようだった。 「うわべだけは良い子ぶって、実際には誰にも心開いてなくて……お前、おばさんが亡くなってからおかしいぞ。自暴自棄になってんじゃねぇのか! あんなクソみたいな芸人のところに単身で乗り込んで行って、しかもこれ一回目じゃないし……結局毎回俺に助けられてんじゃねぇか!!」 「別に助けてって頼んでないし、お母さんのことは関係ない」 「関係あるっつーの! 俺が待合室でお前に言った【おばさんはきっと助かるよ。俺が魔法をかけたからな】って約束が果たされなかったことを、今でも根に持ってるんだろ!」  私はその言葉にショックを受ける。新一はまだ律儀にそのことを覚えていて、だからこそ私も、今まで忘れることができなかったのだーー。
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