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私のお母さんは交通事故で亡くなった。小学4年生の終わり頃だ。それから5年の時を経て、私が中学3年生のときに、私とお父さんが2人で住む家に急に上がり込んできた、見知らぬ女。父の新しい彼女。それまでは私とお父さんの2人きりで、懸命に暮らしてきたはずなのにーー私の居場所が彼女の存在によって、瞬く間に奪われたような気がした。お父さんからお母さんへの愛情もまた、いとも容易く損なわれてしまったように感じた。
「魔法なんて信じてないよ」嘘だ。私はあのとき、新一なら何とかしてくれる、お母さんだって救ってくれると、彼の魔法へ責任を丸投げしていたのだ。「……でも、私はどうしてもお父さんのことが許せないし、あの女にも新しいお母さんになんてなってほしくない」
「あのさぁ。俺がどうして、お前のこと尾け回してるのか、判るか?」
「……心配でもしてるつもり?」
「あぁ、心配だよ。100人なんて実際どうでもよくて、お前の身の周りに1人でも心を通わせられる相手がいるんだったら、俺だってこんな真似はしない。……でもさ、現実問題いねぇだろ」新一は瞳から涙を零していた。「それとこの心配は、俺だけのものじゃないんだよ」
「ーーどういう意味?」
「俺さ、実は。昨日葉月と別れた後、お前の親父さんに連絡して外に呼び出して、話したんだよ」
「えっ、何を?」
「親父さんに言われたよ。どうしても男親だけになると、娘に煙たがられるだろうし、余計な詮索も鬱陶しいと思うんだ」新一は制服の袖で涙を拭う。「だからさ、新一くん。これからも葉月のこと、気にかけてやってくんないかな?だとさ」
「私のお父さんにそう言われたから、仕方なしに観察係を続けるってわけ?」
「違う! これは俺の意思だ。それに俺は、親父さんの胸倉を掴んで言ったさ。俺は葉月の友達だし、幼稚園の頃からの腐れ縁だし、守ってあげたい気持ちはあるけど【親】はあんたしかいないんだ。ーーだから、葉月から目を背けるなって伝えたよ」
どうして私なんかのために、そこまでするんだろう。
「余計なことしないでよ」
「だから今日家に帰ったら、ちゃんとお父さんと話し合えよ」
「あんた本当に、お節介が過ぎるよ」
「自分にやれる範囲のことは、何でもやるよ。……だから、葉月も頑張れ。お前が心の扉をほんの少し開けるだけで、状況ってのは案外ガラッと変わったりするもんだぜ。いつまでも子どものままじゃいられないんだからさ」
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