光冠を投げ捨てよ

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アグニはすっくと立ち上がると自分より少し大きいノルンの体を軽々と持ち上げた。 ノルンは目を白黒させて、やがてはあっと感嘆の息を漏らした。 「アグニ、すごい」 誰も彼も褒められて悪い気はしない。アグニはふんと得意げに胸を張った。 幼い二人が仲良くなっていくのにそう時間はかからなかった。二人は神殿の中を走ったり登ったりしながら心行くまま探索をして過ごした。初めて訪れた場所を見て回るのはさながら冒険に近しい何かがあった。 神殿の中は本当に不思議なもので、大広間には自分達が入って来た所以外に扉はなかった。水晶の扉は開ける度に言い様のない様々な景色を二人の前に映しては消えた。 だが、何故だか扉からは出られなかった。まるで透明の膜のようなものがぴったりと扉に張られているような壁になっていて、その不思議な景色の中に飛び込むことは出来なかった。 ノルンはきっと色々な世界に繋がっているんだと言った。 散々はしゃぎ回った二人は大広間の床に仰向けに寝転がった。 アグニは隣で息を切らすノルンに、ずっと気になっていたことを聞いてみた。 「なあ、月の民は未来が見れるって本当?」 「未来?占術のことか?」 アグニはがばりと起き上がってノルンを見た。 「本当なのか」     
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