光冠を投げ捨てよ

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「アグニ」 緑が生い茂る森の中。 名を呼ばれた少年は自分の手を引く老人を見上げた。 少年の額には、並び歩く老人よりも大きい角が生えていた。小柄な体に見合わぬ橙色に鈍く光る角は、彼が太陽の守り人なのだということをはっきり現していた。 「この先にはとてもおぞましい者たちがいる」 アグニは聞いた。 「何がおぞましい?」 「月の民共だ。奴らは冷たく非道だ。決して心を許すでないぞ、奴らは未来を垣間見るおかしな力を持っている」 幼いアグニは月の民達の未来を見るという力に少しばかり興味が湧いた。 月の民ってどんなの? そう聞きたかったが、垣間見えた同胞の老人の顔があまりにも重々しい嫌悪の表情に塗れているものだから、きっとこれは聞いてはいけないことなのだろうと口を噤んだ。 「着いたぞ、ここだ」 老人にそう言われ、アグニは前へと目を向けた。そこにはただの無骨な岩壁が広がっている。 アグニは首を捻った。 「なにもない」 「そう見えるか」 老人はしゃがれた声で笑うとアグニと繋いだ手とは反対の手を、岩壁に押し当てた。 途端白くまばゆい光が閃光のように瞬いて、アグニはその眩しさにぎゅっと目を瞑った。     
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