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――嫌だ。アグニは咄嗟にそう思ってしまった。
ノルンとの関係が変わってしまうことが怖い。自分はいつまでもノルンの一番大切な人間でいたかった。
黙り込んだアグニを見て未婚の方の青年が首を傾げた。
「お前結婚したい相手でもいんの?お前が声かければ女の方が喜んで寄ってくるってのに、何を悩んでんだ?」
「羨ましいな、守り人は。隣の集落で一番の美人もお前が好きだって言ってんだぞ」
守り人は神の遣い。どんな人間にも羨望の眼差しを向けられ求められる。
不安と焦燥感がアグニを覆い尽くした。
月の国の事はわからないが、きっと同じだ。守り人であるノルンを欲しがらない人間がいるわけがない。
「違う。友達が結婚するって…聞いただけだ」
「へえ、それならめでたいことじゃないか。どこの子だ?」
「めでたい?」
「友達なんだろ?祝ってやらないと」
アグニは両手で俯いた顔を押さえた。
おめでとうと祝福するのが正しいことだったのだろうか。けれどアグニは何故だかノルンが他の女と抱き合って、愛し合う姿が想像できなかった。否、考えたくなかった。
アグニは幼い頃から温めていた気持ちに今初めて気が付いた。
「…祝いたくない」
「え?」
「俺、そいつが好きなんだ」
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