光冠を投げ捨てよ

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その言葉は思っていたよりも簡単に口から零れ出た。 ノルンが好きだ。 気が付いたところでどうしようもなく、ただゆったりと時が過ぎていくだけだった。 自分は太陽の国の人間で、ノルンは月の国の人間だ。 すぐに会うことが出来たなら、結婚しないでほしいと伝えに行けたかもしれない。 それでも会えるのは一年にたったの一回きり。 会いたい。その気持ちだけが膨れ上がってアグニは苦しさに苛まれた。 アグニに出来ることは次の神事の時をただ待つことだけだった。 どうして同じ国の人間じゃなかったのだろう。 「違う」 どうして、月の国の人間と交わってはいけないのだろう。 角が生えているから、目が金色だから。力か強いから、色々なものが視えるから。 たったそれだけじゃないか。 二つの種族は確かに相容れない歴史もあったかもしれない。だがそれでも同じ命だ。笑って、泣いて、同じように生きている筈だ。 アグニは子の世界が二つに分かれた理由をずっと考えていた。しかし、どれだけ考えてもその意味を見いだせることは無かった。 神殿は泉の中に祀られている神々が作り上げたものだとノルンがいつか教えてくれた。 次にあった時、聞いてみよう。聡明な彼なら答えてくれるはずだ。     
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