光冠を投げ捨てよ

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「よくお聞き」 老人がアグニの肩を力強く抱いた。 「わしら長老はこの先には行けぬ。神殿に入れるのも新しい守り人を案内する役目を持ったこの初めの一回のみよ」 「ここからひとり?」 「ああ。神事の手順は覚えているな」 アグニはこくんと頷いた。 「いいか、月の民の目をあまり見るでないぞ。心を読み取られる」 「そんなに怖いのか」 「大丈夫、決して臆するな。お主は太陽の民なのだから」 「……」 「ではな、わしは先に戻っておるぞ」 老人はアグニの頭を撫でた。そして、アグニの体から手を離した途端にふっと空気に溶けるようにその場から消えた。 これにはアグニも目を白黒させて驚いた。だが、やがてここは不思議な場所なのだと自分を納得させ乱れた気を落ち着かせた。 すう、はあ、と一度深呼吸をしてから扉を見上げる。 「…月の、民」 同胞たちが口々に伝える、恐ろしくおぞましい月の民。それがこの扉の向こうにいる。 どんなだろうか。男、女、それとも老人だろうか。 大男だったり、一つ目だったり、化物のようなものだったらどうしよう。 「…よし」     
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