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暗い。
一瞬、めしいになったのかと肝を冷やしたがすぐにそれは杞憂だと気づいた。
何かが自分を柔らかく照らしていた。そろりと天を仰げば群青色の空にいくつもの光が瞬いている。中に一際大きく仄白い光を放つ丸いもの。
「ここ、は」
足元には白い砂。辺り一帯が一面の砂漠となって広がっている。
広大な砂漠の向こうには、青い海がとろりと交わるようにして存在していた。水平線と地平線がお互い混ざりあっているような不思議な光景だ。
それはアグニが初めて目にする月の国だった。
「綺麗な国だ…」
太陽の国とはまるで違う。ここがノルンの生まれ育った国。
綺麗だがアグニはどこかもの悲しさを感じた。体を撫でる風は冷たく乾いていて、両腕を手で擦っても耐えられそうになかった。
アグニは辺りを見渡したが、四方八方を何もない砂漠に取り囲まれていた。建物どころか生き物の気配すらしない。
ノルンはこの国のどこかにいる。でも、どこに?
アグニはこの見知らぬ世界で独りぼっちになったような不安感を感じた。誰もいない、何もない。
だからと言って、ここで立ち竦んでいてもどうしようもない。
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