光冠を投げ捨てよ

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行く先もわからぬまま駆け出した。踏み出した足は砂に埋まり、もつれて、体は何度も砂の上に転がった。 そうして一体どれほどの時間走っただろうか。 目路の限り続く無限の白と青はアグニの心に少しずつ恐怖を植え付けていった。 走っても走っても、同じところに体が縫い付けられているように感じる。ここはどこだ。本当に月の国なのか。 喉は乾き、足から力が抜け、アグニはとうとう足を止めて砂に両手をついた。 一歩砂を踏むごとに足の裏から意識と体力が吸い取られていくようだった。 「寒い…」 このままどこにも辿りつけないのではないか。俺は、どこに行こうとしているんだ。 俺は、どうして、こんな所にいるんだっけ。 意識が朦朧として、手足は凍える寒さに力を奪われていく。頭の中は霞みがかったようにぼんやりとして物事がうまく考えられない。 倒れ込みそうになった時だった。 ――にゃあん。 不思議な声が聞こえ、視界の端に何かがゆらりと揺れた。 どこかから澄んだ空気の香りがする。 「な…に」 アグニは顔を上げた。そこには小さな、白くぼやりと実態のつかめない靄で出来たような生き物が立っていた。 丸い頭に三角の耳、長い尾をしたそれには見覚えがあった。あの神殿で神像の象徴となっていた生き物だ。 「月、神……?」     
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